パリ紀行
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ラパン・アジールにてシャンソンを歌ふ:パリ紀行その十六


午後六時半ホテルを出で、再びラマルク駅に至り、モンマルトルの丘より夕日を眺めて後、葡萄園傍らのカフェ、ラ・メゾン・ローズにて夕餉をなす。坂道に沿って、テーブルを並べをるなり。簡単なコース料理と白ワインを注文するに、ここは料理もワインもうまかりき。



田舎道にかかはらず、さまざまな人々次々と通りがかりたり。どうやら葡萄園の収穫祭とかかはりあるやうなり。そのうちドイツ人学生の一団来りてカフェのテーブルに座せしが、しばらくして去る。店主がいふには、値段が高すぎるとて、去りし由、店主ここより安い店がどこにあるかとて、舌打ちをなせり。

九時前にラパン・アジールに赴く。すでに数人の人扉の前にて待ちゐたり。聞けば地元の人にて、ここへはたびたび来るなりといふ。さうかうするうち、人々次々と集まり来り、九時にはその数三十名ばかりになりぬ。



九時丁度に扉開かれ、内部に案内せらる。カウンターの奥にさらに別室あり、木造の空間にて、思ひのほかに狭し、五六十名も入れば超満員となるべし。余らは入り口近くの壁を背にした席に座す、入り口を挿んで反対側にピアニストの席あり、その前が歌手の席なり

歌手はほとんど常時客とともにありて、交互に歌を歌ふなり、しかも客との間に何らの隔てなし、客の間を歩きながら歌ふなり。

歌手ら始めの頃はフランス民謡を合唱す。多くは始めて聞く歌なれど、そのうち Chevaliers de la Table Ronde を歌ふものあり。歌手客に向かってともに歌はんことを請ふ、余もまたともに歌ひたり、例のウィウィウィ、ノンノンノンのところにさしかかるや、全員大声を張り上げて合唱す

そのうち店主なる人も輪に加はりて歌ふ、店主余に向かってムッシューは良き歌手なりと世辞をいふ、しかしてともにAlouette を歌はんと誘ふ。他の客も加はりて大合唱す。大いに気分よし。

ついで小柄な女性歌手アコーデオンを弾きつつエディット・ピアフの歌を歌ふ、声もピアフによく似たり、人をして陶然たらしむ

さすがのパリ旅行といへども、まさか、かかるキャバレーに入りて、ピアフの曲を聞き、かつ即興のシャンソンを歌ふとは思はざりき、



宴は果てもなく続くようにみえたれど、深更を過ぎて明け方の二時まで続くと聞き、十一時を回る頃に退出せり。





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