イタリア紀行
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イタリア紀行その四:フォロ・ロマーノ、真実の口


(トラヤヌスのフォロよりフォロ・ロマーノ方面を望む)

フォロ・ロマーノは古代ローマの政治的中心たりし所なり。共和政時代には市民の集会の場として、帝政時代にはローマの偉大さと栄光を讃ふる場として象徴的意義を持たされたりと言ふ。中世の初期に蛮族の侵入を受け一時荒廃の限りを尽くしたれど、近世になりて発掘されて以来古代ローマの貴重なる遺構として今に至るまで大切に保存せられをるなり。その規模はパラティーノの丘と併せて東西三百米、南北四百米ほどなり。

地下鉄建設工事に伴ひ臨時に設置されたる西側の入口より入る。待つことなくして入るを得たり。入るとすぐセヴェルスの凱旋門あり。紀元三世紀初頭セヴェルス帝を記念して作られたる由。門左脇後方にローマの臍と呼ばるる直径四米のレンガ製の円あり。ここがローマの中心なるを示すモニュメントなり。


(パラティーノの丘下遺構)

門前を過ぎればフォロ・ロマーノの西端にあたるところにイオニア式の円柱を連ねたるサトゥルヌスの神殿あり。現存するものはこの列柱とその上部を結ぶ桁枠のみなり。又門の斜向ひには巨大なる石の遺構あり、その先にはパラティーノの丘の土台ありてその上のテラスより人々の下界を見下ろすさまを仰ぎ望み得たり。


(アントニウスとファウスティーナの神殿)

フォロ・ロマーノ中心部北側にコリント式列柱をファサードにせる建物の遺構あり。アントニウスとファウスティーナの神殿なり。紀元二世紀半アントニウス帝が皇后ファウスティーナをしのんで建てたりと言ふ。


(テトゥスの凱旋門)

フォロ・ロマーノを東西に貫く道を聖なる道と言ふ。その東端にテトゥスの凱旋門あり。紀元一世紀テトゥス・ヴェスパニアヌス帝の対エルサレム戦争勝利を記念して建てられたりと言ふ。アーチ型の通路を持つ均整ある建物なり。

テトィス門の手前を右すればパラティーナの丘へ上る道あり。その道ひに巨大なる松の木連なりてあり。松はローマ地方の特産物なる由にて古代より建築材として重宝せられたる由なり。


(ロムルスの神殿)

パラティーナの丘の上のテラスよりフォロ・ロマーノの全景とその背後に広がるローマの街並を望み得たり。上の写真は中央がロムルスの神殿、その右手がマクセンティウスのバジリカなり。いづれも四世紀初頭にマクセンティウス帝により建てられたり。ロムルスはマクセンティウスの夭折せる息子の名なりと言ふ。

パラティーノの丘を下りてサン・グレゴーリオ通りに面する出口に至り、そこなる便所に入るに汚穢この上なし。しかも男女共用なり。イタリア人は便所の清潔と男女の区別に無頓着なるが如し。

サン・グレゴーリオ通りを左してチェルキ通りを西す。炎暑耐へ難く道端なるトラック式のジェラテリアにてジェラート(ソフトクリームのことなり)を買ひ求めて舐む。疲労のやはらぐを感ず。このとき老眼鏡を紛失せることに気づく。どうやらパラティーノ丘にて暑さのあまりジャケットを脱げる時、胸ポケットより脱落したるものの如し。老眼鏡なくては不便このうへなし。


(コスメディアン教会)

チェルキ通りの西端よりポンテロッテ通りとグレーカ通りを回り込んでサンタ・マリア・イン・コスメディアン教会に至る。すなはち真実の口のあるところなり。付属せる尖塔は遠くより容易に認めることを得るなり。

ここはオードリ-・ヘップバーンの映画ローマの休日の最も有名な場面の舞台なり。教会内にある真実の口なる像に手を入れるに、真実ならば抜くことを得、虚偽ならば抜くことを得ずと言ひながら、オードリー・ヘップバーンの目の前にてグレゴリー・ペックが手を入れたるところ手を抜くことを得ず、二の腕より先を口にもぎとられたるやうに見えしかば、オードリー・ヘップバーン大いに驚き罵り騒ぐシーンを以て世界の映画史上最も有名なシーンとなすなり。


(真実の口)

この映画を愛するは日本人に限らざるが如く門前夥しき人列をなしてあり。余らもその列に加はり真実の口に手を入れんと欲せるなり。小一時間待ちたる後やうやく真実の口に手を入れるを得たり。その折教会の捌人にスナップショットを撮影せしめたり。

この後テーヴェレ川を渡ってトランステーヴェレに行く腹積もりなりしが疲労感甚だしくまた老眼鏡を失ひて視力もままならざればこのままホテルへ戻ることとす。教会付近の停留所よりテルミニ行のバスに乗り夕刻テルミニに至る。しかしてホテルに一憩して後付近のイタリア料理店モンテアルチに赴き夕餉をなす。


(レストラン、モンテアルチ)

余らの入りたるときは殆ど客の姿を見ざりしが、しばらくして次々と現れつひには満席となる。客の中にはホテルのウェイターと懇意なる者あり。互ひに抱きあひて再会を大袈裟に喜びゐたり。

日本語メニューありといふ故持参せしめ文子をして選ばしむ。ムール貝の白ワイン蒸、あさりのパスタ、平目のグリル、シーフードのリゾットなどを注文す。平目として出てきたるはどう見ても平目にあらず、スズキのやうなり。余大いに不如意なりしがウェイターを詰問せずしてやみたり。

食後部屋に戻り重ねてワインを飲む、酸味の利ける白ワインなり。





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