四方山話に興じる男たち
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露西亜四方山紀行その六:クスコヴォ、ヴェルニサージュ



(ムジェイ・クスコヴォ)

九月十五日(土)晴。六時に起床して昨日の日記を整理し、八時に食堂にて諸子と落ち合ひ朝餉を共にす。メニューは連日同じなり。この日はノヴゴロドへの移動日なれば、十時にホテルを辞し、タクシーを雇ひてレニングラード駅に到る。その名のとほりサンクト・ペチェルブルグ方面の列車の発着駅なり。構内に入らんとするに荷物の検査をなす。駅にもセキュリティの強化を施すは、ロシアはテロに敏感なるが如し。

地下の荷物預かり所にスーツケースを預け、近接する喫茶店にてコーヒーを喫す。その後地下鉄を乗り継いでリャザンスキー・プロスペクト駅に到り、そこよりバスに乗りてクスコヴォに向はんとす。駅員にバス停の所在を聞くにその場を認識せず。されど自ら先頭に立ちて通行人にその所在を聴取し、我らに教へんとす。殊勝な心がけなり。

バスは生活路線と思しく、車内大いに混雑せり。さる婦人に目的地を告げ、その誘導を得て間違ひなく下車することを得たり。

ムジェイ・クスコヴォはさる金満家の別荘なりし由。広大なる庭のあちこちに瀟洒なる建物点在す。主棟はヴェルサイユ宮殿を模して作れる由。ここは結婚式のメッカなる由にて、庭園内のいたるところ新婚のカップルとその取り巻きら横行してあり。余らは新婚カップルの幸福さうなる様子を横目にしながら、庭園を散策せり。庭園には広々と池を掘り、その水面に宮殿の影を浮かべてあり。なかなかの眺めなり。

再びバスに乗りてメトロ駅に戻り、昼餉をなさんとす。周囲にレストランらしきものなし。ケンタッキーフライドチキンの店に入り、ペプシコーラを飲みつつチキンバーガーを食ひたり。余、ケンタッキーフライドチキンの店にて食事をなすは生涯初めてのことなり。


(ヴェルニサージュ)

食後またもやメトロを乗りついでパルチザンスカヤ駅に至る。ここは青空市もて名高きところなり。石子の友人が作成したる名所案内にも激賞してあれば、是非訪れんと思ひしなり。駅前の通り沿ひに品物を広げて売らんとするもの陸属す。通りの尽くるところにヴェルニサージュなる常設市場あり。土産物を売る店櫛比してあり。一々冷やかしながら気に入りたるものを買ひ求めたり。余も家人のためにマトリョーシカの組み立て人形やら翡翠のブローチなどを買ひ求む。

聊か疲労を覚えたれば、さる店に入りてビールを飲む。岩子は赤ワインを飲む。愛嬌よしの娘に赤ワインを註文するに、砂糖を入れるべきやと聞かる。余、ワインに砂糖を入れるとはどういふことかといぶかしく思へり。岩子に聞くに、このワイン味辛辣にして砂糖を入れずんば飲めざる代物の由。なほこのワインを給仕せる娘はなかなか愛嬌あり。余、その娘の表情に見とるるあまりチップを与へはぐねたり。


(モスクワの地下鉄)

三度地下鉄に乗りてレヴォリューツィア広場駅に至る。モスクワの地下鉄網は極めて利用しやすく作られてあり。駅舎の構造規格化せられ、駅相互の接続円滑なり。また駅内の空間は適度の装飾施され歩みて心楽しむやうに考慮せられたり。

ツム百貨店にてヲートカとチーズを買ひ求む。今夜乗る夜行列車の車内にて飲むつもりなり。当初の心積りにては、初日に入ることを得ざりしクレムリン内部を見物すべかりしが、時間切迫するを以て中止す。冷戦博物館の見物も同じ理由から中止したり。



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