四方山話に興じる男たち
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露西亜四方山紀行その二:赤の広場・歴史博物館



(モスクワ劇場広場前のマルクス像)

九月十三日(木)早朝四時半頃目覚む。窓外を見れば雨霏霏たり。昨日以前の日記の整理をなして後、八時に五階カフェにて諸子と落ち合ひ、朝餉をなす。ロシア風蒸しパンにソーセージの類なり。食後、持参せるタブレット端末を石子のWifiルーターに接続す。石子これを成田空港内にて調達せし由なり。ホテルWifiのPCへの接続はならず。

九時にホテルを辞し、地下鉄にてアホートニィ・リャート駅に至る。劇場広場よりボリショイ劇場を臨む。一の壮観たり。ボリショイ劇場の右手にマールイ劇場あり、その奥手にはツム百貨店あり。また、ボリショイ劇場の反対側にはマルクス像あり。近づき見るに台座に共産党宣言中の一句刻印せられてあり。すなはちいはく、プロリェターリー・フシェフ・ストラーン・サエヂニャイチェシ!(万国の労働者、団結せよ!) 像を背景に記念撮影をなす。その頃雨上り、北の空青みたり。


(赤の広場)

赤の広場に至る。中国人の姿多し。広場に臨みてグム百貨店あり。内部を散策す。三階建なり。多くは有名ブランドのアウトレットなり。石子インフォメーション嬢と会話をなすに翻訳マシーンを以てす。これは日本語の音声をロシア語に変換するものなり。石子尋ねて曰く、トイレはどこなりや、と。インフォメーション嬢、答ふるに日本語を以てす、三階にあります、と。即ち一同揃って三階に赴き小用を足す。入口に便所守の老婆ありて入場料を徴収す。排便料一度に付き三十ルーブリなり。


(グム百貨店内部)

一階は食料品売場なり。見て回るに、価一般市場に比すれば大いに貴し。キャビアなどは百グラムあたり一万二千ルーブリなり。溜息を吐きてやむのみ。

石子また先程のマシーンを用ひて一のロシア人に語りかけんとす。ロシア人手を振り色をなして拒む。蓋し、気味悪き外国人と思はれしなるべし。


(レーニン廟)

この日、クレムリンは非公開日なり。ただレーニン廟は公開してあり。余ら内部に立ち入らんとして守衛に制せらる。行列に並べと。見ればはるか彼方より長大なる行列の続けるを見る。その先頭なる中国人にどれほど長く待ちゐたるやを聞くに、すでに一刻に余ると答ふ。余ら、行列に並ぶことを断念せり。

そのかはりに、ロシア歴史博物館に入る。ガイド付き見物ツアーに参加す。説明嬢は長身のロシア女性にて、陳列物をもとに事細かな説明をなす。その説明を聞くに、ロシアの英雄はイヴァン雷帝にて、ロシアはイヴァン雷帝によって国の形を築かれし由なり。説明を聞くこと一時間半、その終了を待たずに館を辞す。

アルバート通りのとあるカフェにて昼餉をなさんと、タクシーを呼ぶ。タブレット端末を用ひて、タクシーの呼び出しサービスを活用せるなり。間髪を置かずして一台のタクシー来る。車体の色はイエローにて、アプリ指定のものと同じなれば、これこそ呼べるタクシーなれと思ひ込み、是非なく乗り込む。タクシーは市街を迂回してアルバート通りに向ふ。途中プーチン・ハウスなるものあり。すなはちクレムリンのことなり。広大なる敷地にロシア風の建物立ち並びたり。

目的地に到着するや、タクシーのドライバー法外の料金を要求す。余、その額に納得せず、しばし押問答となる。ドライバー譲らず。そのうち闘争モードに入る。余らを老人のお人好しと侮りて凶行に出たるなり。余、ここにてドライバーと争ふは不都合の種にならむと思ひ、終にドライバーの要求に応じたり。しかしておもへらく、モスクワはいまだに雲助タクシー横行すなりと。

ムームーなる中国風カフェにて昼餉をなす。余、諸子に不体裁を謝す。諸子余に同情して責むることなし。余は憤慨のあまり食欲を覚えず。生ビールを飲み、薬を服用してやむ。

とてもかくても我が不甲斐なさには忸怩たるものあり。日本にてはかかるならず者にいいやうにさるることを許さざるも、異国にてはさうもいかず。されど、かかる無茶苦茶な目にあひたるは、度重なる外国旅行にして始めてのことなり。ロシア人はいまだに民度低しと思ひ知りたり。チェーホフの小説中に活躍する小悪党が廿一世紀のいまも跳梁しをるなり。



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