四方山話に興じる男たち
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日本へ:独逸四方山紀行



(拙宅のミニトマト)

ホテルにて荷物を受け取り、タクシーを雇ひてフランクフルト空港に至る。浦子運転手にチップをはずみたるところ、運転手感激せる様子にて日本語もていはく、ウレシー、と。ヨーロッパ諸国にては、頃日カード決済の普及に伴ひ、チップをやりとりする慣習次第に衰へをる由なり。タクシーの運転手と飲食店のギャルソンは、チップもて生活すとまでいはれしが、今日はその慣習の崩壊期にあたれるなれば、彼らの生活も甚大なる脅威に直面せるが如くなり。されど余はその詳細をつぶさに知ることなし。

フランクフルト空港は成田空港同様巨大なる施設にて、二つのターミナルよりなる。フィンランド航空は第二ターミナルにあり。そこにて搭乗の手続をなさんとするに、余らの乗る便はJALのものなれば、JALのカウンターにて手続せよと指示せらる。すなはちJALのカウンターに赴く。ここにてドイツ滞在後初めて日本語を聞く。十日ぶりに聞く日本語なれば、余聊か安堵の感傷に耽りぬ。

空港内に薬局を見かけたれば、そこにて目薬を求む。店員余の語るところの症状をよく聞き、軟膏の目薬を交付す。炎症を抑ふる効用ありといふ。これを患部に塗るに、気の所為か、次第に痛みの緩和するを覚ゆ。

ラウンジにてコーヒーを飲み。五時過出国手続をなす。ここにて日本人観光客と対話をなす。さる老嫗グループは、お友達同士相語らひ毎年ヨーロッパに旅行するなりといふ。しかしてこのたびの独逸旅行はフランクフルトに一週間滞在し、そこを拠点にあちこち訪ね歩きしが、きはめて痛快なりしと強調す。また、あなたはどこを見物しましたか、といひたれば、ベルリン・ハンブルク・カッセルを巡遊してフランクフルトに一泊し、ローレライを見てきました、と答ふ。老嫗ら言ふ、それは旅行会社のツアーですか、と。余答えていふ、いや友人が直接手配しました、と。老嫗言ふ、それは羨ましいですわ、わたしらは個人で手配するどころか、ツアーについてゆくだけでも大変ですもの、と。

この空港、出国審査をなしたる後、手荷物検査の場に赴く間に、免税店立ち並び、手荷物検査場より先には、店もラウンジもなし。よって、手荷物検査の前に、免税店に立ち寄りて買物をなし、あはせて機内にて飲むつもりの飲料も買ひ求めしが、これらの飲料は機内に持ち込むことを許されず、その場にて没収せらる。余いささか意外の念に打たれたり。

岩子の言ふには、機内に持ち込めざるものを免税店にて売るは詐欺といふべし。客が免税店にて買ひ求めし品物を没収するは、それを転売して儲けるつもりなるべし、と。けだし一理あらんか。

十九時二十分発成田行の便に搭乗す。飛行機は十九時三十五分に離陸す。復路は往路を戻りぬ。機内二度にわたり食事の饗応あり。一度目は離陸後一時間余り後、二度目は着陸予定時刻の一時間余り前なり。余は目薬のやや効用をあらはすを感じながら、食事をなす。二度の食事の合間は熟睡してありき。

六時四分(日本時間午後一時四分)成田空港に着陸す。飛行時間およそ十一時間なり。先年フランクフルトより帰国せし折には十三時間を要したり。この間に航空機の性能進歩せしや。

成田空港にて浦・岩の二子と別れ、北房線経由にて帰る。家に着きしは午後三時のことなり。食卓上に家人の残せる書置あり。この日はさる温泉に一泊するゆえよろしくとあり。庭に出るに、育て置きたるミニトマト赤く色づきてあり。見れば食ひごろなり。

目の症状は大分緩和したれど、大事を思ひて近隣の眼科に赴き治療を乞ふ。ものもらいがこじれたるなるべしとて、液状の目薬二種を処方せらる。独逸にて買ひ求めし目薬は今後用ひざるべしといはる。

晩間谷子よりメールあり。この度の旅行の思ひ出を各自文章に表現し、それを谷子の設定せるSNS(独逸銀の旅といふ)に寄せらるべしとあり。


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