四方山話に興じる男たち
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コーミッシェ・オーパー:独逸四方山紀行



(ベルリン・コーミッシェ・オーパー劇場正面)

谷子、こたびの旅行を計画するについて、ナイトライフを重視し、夜を楽しむに芸術鑑賞を以てせんとて、歌劇やら管弦楽の催しを多く取り入れたり。今夜はその事始とて、歌劇の観劇をなさんと欲す。場所はウンターデンリンデン近隣のコーミッシェ・オーパーなる劇場、出し物は現代ドイツの作曲家アリベルト・ライマンの作品メデアなり。

五時頃ホテルを出で、ゾーネフェルダープラッツ駅より地下鉄に乗り、アレクサンダープラッツにて乗り換へ、フリードリッヒ・シュトラーセ駅にて下車。途中各駅のコンコースにて通行人の様子を見るに、四肢の皮膚に刺青を施すものを多く見る。中には十四五歳の少女、足首辺に賑やかなる刺青を彫る者あり。また、臀部よりふくらはぎにかけて幾何学模様の刺青を彫る者あり。しかして聊かも憶することなし。かへって誇れる様子なり。ドイツ人はことのほか刺青を愛する国民性と見えたり。



フリードリッヒ・シュトラーセより歩みてウンターデンリンデン通りに至り、ブランデンブルグ門方面へ歩む。途中土産屋に立ち寄りて買物をなす。ブランデンブルグ門よりやや手前の道路分離帯の緑地上屋台を出す者あり。その中の一軒に立ち入りて、夕餉をなす。食せしは、クリーヴルスト(略してクリヴリといふ)といひて、安物のソーセージ(これをヴルストと言ふ)にカレー粉をまぶせるものなり。これにフライドポテトを添へケチャップをかけてあり。谷子言ふ、これはいはゆるB級グルメなれど、ベルリンの最もベルリンらしき食物なり。ベルリンに来てこれを食はざる者はベルリンをつひに理解すること能はざるなり、と。岩子ひそかに言ふ、かかるジャンクフーズは世界共通にて、ベルリンならずともいづこにても味はひうるなりと。

コーミッシェ・オーパーは第二次大戦後建設せられたる中規模劇場にて、主として外国作品を上演することを以て特徴となす。中規模劇場とはいひても、客席は三層を呈し、千名以上は収容すべし。余らは第二層の客席に座したり。



今宵の出し物歌劇メデアは、有名なギリシャ伝説を踏まへつつ、現代的な解釈を施せしものなり。ソフォクレス描くところのメデアは、メデアのその夫イアソンに対する嫉妬を中心に構成されをれど、この劇はメデアの子殺しに焦点を当て、母親のおどろおどろしき情念を浮かび上がらせてあり。なかなか見ものといふべけれど、余は先日来の疲労の蓄積と先程飲みしビールの働きを受けて、睡魔に襲はるること数次、観劇に精神を集中するあたはざりき。

また劇開始して暫時のうちに、岩子嘔吐を催す。どふやら先程食ひしジャンクフーズの効果なるが如し。廊下にて休ましむ。かかれば岩子はほとんど劇を見ることなし。一方谷・浦の両子は、ジャンクフーズを無事消化し、睡魔にも襲はるることなく、オペラを楽しみたるが如し。

オペラ引けて後、劇場近くの路上にてタクシーを捕まへ、ゼーネフェルダープラッツに帰る。駅近くのスーパーマルクト・レーヴェにて買物をなすこと昨夜の如し。

アパルトメントに戻り一息入れたる後、リヴィングルームに集まりて白ワインを飲みつつ小談をなす。談中話題は今日の日本の政権批判に及ぶ。曰く、今日の日本の政権たるや、国民に対して嘘をつくのが下手にて、その分やたらと国民を脅しにかかる。その嚇しぶりたるや、やくざも鼻白むばかりの稚拙さなり。やくざたりとも、人を脅すについては、脅し役となだめ役との分担あり。しかるに今日の日本にては、総理大臣自ら国民を脅すと思へば、相棒の官房長官はそれに輪をかけたる露骨さを以て国民を恫喝すなりと、云々。

シャワーを浴び、深更過ぎて就寝す。この日もまた目いっぱい働きたり。


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