京島の路地1(26×36cm ヴェランアルシュ 2004年8月)

かつて京島から東向島にかけての一帯は軒を低く連ねた木造家屋の密集する地域だった。狭い路地が網の目のようにはり巡らされ、一歩中にみ込むと方向を見失うこともままあった。まさに迷路を絵に描いたような街だったといえる。

わたくしは、向島の事務所に赴任した最初の日に、地図を頼りに事務所のある方向へと歩いていったのだが、狭い路地を右に左に進み行くうち、袋小路に迷い込んで途方にくれたことがあった。ただでさえ方向感覚に欠けたところのあるわたくしは、視界のきかない狭い路地を手探りしながら進んでいく間に、すっかり方向を失ってしまったのである。袋小路の突き当たりは長屋で、開け放った戸の向こうには別の路地が覗いていた。どうやらその路地こそ我が目的の事務所に通じているような気がしたのだが、長屋を通り抜けるわけにゆかず、道を引き返したのだった。

この日久しぶりに京島の中を歩いてみて、さすがにそのようなことは起こらなかった。長屋は見られなくなり、道もいささか整然とした印象に変っていた。不燃化を目的にした街の改造の成果が現れてきたのだろう。






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